Vol.00

アイスランド特集 vol.2 氷の洞窟 ICE CAVE

早朝5時にホテルを出発し、氷河の上にある氷の洞窟(ICE CAVE)を目指した。気温は−2℃。風がない分、体感的にはそれほど厳しくない昨日までの雨と強風が嘘のようにみ、氷河が歓迎してくれているようだった。

アイゼンを付け、氷の上を歩くと、足の裏にザクザクとした感触が伝わる。まだ外は暗く、懐中電灯を頼りに一歩ずつ進んでいく。「この氷河はどれくらいの厚みがあるんだろう」そんなことを考えながら、洞窟を目指して歩いた。

この氷河は約800年前に形成されたとわれている。数千年前の層もあれば、最近の雪が圧縮された部分もある。平均して800年というのは、この氷河全体の代表的なスケールだ。13世紀から始まった“小氷期”に、ヨーロッパや北大西洋の気温が冷え込み、積もった雪が時間をかけて氷河になる。

アイスランドでは、氷河は火山の上にできることが多いが、地熱によって溶け、その水が溜まって湖を作り、周期的に氷河湖決壊洪水を起こすこともあるという。溶け出した氷の塊は「氷山(Iceberg)」と呼ばれ、湖や川を通って海に流れ込む。海に浮かぶ氷山は、雪や海水の塩分、波や衝突などさまざまな影響により、上下が反転することがある。海底にあった面が、突然ひっくり返って顔を出すのだ。

アイスランドに来るまで知らなかったが、自然は想像よりずっと動的で、生きている。洞窟の話に戻ろう。道のりは長かったが、静かで、どこかピーンと張り詰めたような空気が漂っていた。前を進むチームの足音だけが、ザクザクと響いていた。

洞窟の入口に着くと、想像よりも大きい。幅は10メートルほど、下には川が流れていて、天井は低いところで2メートル、高いところでは10メートルを超える。

氷にライトを当てると、層の中に閉じ込められた無数の気泡が見える。その中には、百年前の空気がそのまま残っているという。氷の世界では、ヘルメットに落ちる水滴の音だけが、静寂の中で響いている。朝陽が昇り始め、洞窟の入口から差し込む光が反射して、わずかに壁が輝いた。その一瞬だけ、世界が青白く揺れたように見えた。

僕はカメラを構えながら、何も考えないようにしていた。普段なら、次の仕事や企画、売上やマネジメントのことを頭のどこかで考えている。でもこの時ばかりは、それを全部置いておこうと思った。

“今”だけを撮ることに集中した。集中しないと、もったいないって思ったんだ。洞窟を出ると、氷河の表面に朝の光が広がっていた。空気が透き通っていて、遠くの山までくっきり見える。

寒さで頬が痛いのに、不思議と心地よかった。ゆっくり動くものが、世界を変えていく。急ぐことだけが、進むことじゃない。

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