Vol.00
What's up BOSS
BOSSコラム|やらない力
経営においてよく語られるのは「何をやるか」だ。新しい商品を出す、新しい店舗を出す、新しい施策を試す──。しかし、一方で「何をやらないか」を決めることも、大切だ。
価値の源泉は、常に希少性にある。いくら良いものでも、市場に溢れればその価値は薄まる。希少性を守るには、あえて供給を絞り、売れる状況でも「やらない」判断が必要になる。
一方で、人気のあるものがさらに人気を呼ぶ現象もある。行列は行列をつくり、話題は話題を拡大する。「売れるからもっと出す」「並ぶからもっと増やす」という循環は、短期的には勢いを生むが、長期的には希少性を削り、価値を下げていくリスクをはらむ。
green の創業当初もそうだった。まだ駆け出しのブランドで、都心に工房を構えた手作りのチョコレートショップは珍しかった。当然、テレビや雑誌から多くの取材依頼が舞い込んだ。スタッフの中には「ぜひ出たい」という声もあったが、それをすべて断った。
理由はシンプルだ。価値の源泉は希少性だから。ブランドが芽を出したばかりの時期に、メディアに消費されてしまえば、一瞬で“ありふれた存在”になる。だから、あえて露出を「やめる」ことで、ブランドの核を守った。
「やらない力」とは、成長を拒むことではない。むしろ、成長を続けるために余計な膨張を削ぎ落とす行為だ。筋肉を鍛えるときに、余分な脂肪を落とすのと同じ。一見非効率で、目先のチャンスを逃すように見えても、長期的にはそれがブランドを強くする。何もかもやろうとするブランドは、やがて自らの価値をすり減らして消えていく。「やらない」ことを選べるブランドは、長く残る。

Mail Magazine
UNCOLORED WEEKLY MAGAZINEは、クラフトカルチャーを軸に、世界中を独自取材し、次の時代のヒントを見つける為のカルチャーマガジンです。毎週末にお届けします!