Vol.01

「機能性医学」 という考え方 現代医学の潮流を読み解く

人生100年時代と言われるなかで、「人は病に対してどう向き合うか」 がますます重要になっている。現在、医学の最新潮流とされるのが「機能 性 医 学 」 。 い や す で に 「 最 新 」 と い う 時 期 は 過 ぎ 、「 本 流 」 と 呼 ぶ の に ふ さ わしいほど、本質的に健康と向き合う医師に広く支持されている。機能 性医学を日本に広めた主役のひとり、日本機能性医学研究所所長の斎 藤糧三医師に話を聞いた。


機能性医学(Functional Medicine)とは、1990年にアメリカのジェフリー・ブランド博士によって提唱された「最先端科学と医学を融合した、生活習慣病や慢性病の治療法」だ。ビル・クリントン元アメリカ合衆国大統領が選んだ次世代医療としても知られている。

特徴を端的にいうと「できるだけ治療薬に頼ることなく、発症原因に着目して予防と根本治療を目指す」ということ。当然、病歴や体質、生活習慣などは個々人によって異なるため、医療のあり方も十人十色の個体差を考慮すべきというのが基本姿勢になる。

機能性医学が威力を発揮するのは、特に、慢性疾患や生活習慣病だ。なぜならそれらの疾患は発症のメカニズムが複雑であり、医師から処方された薬を飲み続けるだけではなかなか治癒できないから。現在では多くの患者がドクターショッピングを繰り返し、対症療法に大量のお金と時間を注ぎ込んでいる。それに対するアンチテーゼとして、発症原因に着目しながら予防と根本治療を目指すために誕生したのが機能性医学なのだ。

 日本における機能性医学の第一人者、斎藤糧三医師はこう話す。「以前から対症療法ではなく、もっと深い部分に光を当てて根本的に病気を治そうという動きはあちこちで見られました。そんななか、この10年くらいで次世代シーケンサーが開発され、遺伝子やエピゲノムの解析が進んでいます。ようやく医学の理想に時代が追いつき、本質を追求できる環境が整ってきたように思います」

 たとえば「不眠」という症状ひとつとっても、原因はさまざま推察される。神経伝達物質の不足、ミネラル不足による神経鎮静の問題、性ホルモン低下による睡眠中枢のトラブル、脂肪酸のバランス悪化など……。通常なら睡眠導入剤を処方して終わりのところ、不眠の原因に鋭く切り込み、根本的な解決を目指すのが機能性医学であり、その洞察のオプションを多数取り揃えているところに機能性医学の特徴がある。

 20236月、アメリカのフロリダで機能性医学会が開催された。出席した斎藤医師によると、今回のトピックは大きく3つあったという。一つ目はウェアラブル、二つ目はカンナビノイド、三つ目は違法薬物の医療転用だ。

「これまで機能性医学は腸内環境や遺伝子検査、マインドフルネスなどのトピックを扱ってきましたが、すでにそれらは必要な人に行き届いています。また、『免疫ってなんだろう』『遺伝子はどう解析するのか』など、そうした疑問がテクノロジーの進化とともに少しずつ解決されはじめ、技術や科学の論文も多く出され、本質的な治療を始めるための材料が次第にそろってきました。いってみれば現在はやっと医療における『地図』が完成したタイミングであり、どこにどんなビルを建て、どのように道を作り、どんな町を作っていくのか、それが、これから機能性医学が進むべき道筋であり、医療の未来になると思います」

 

斎藤 糧三 Ryozo Saito
医師/日本機能性医学研究所所長。
2022年、機能性医学と再生医療を融合させた治療拠点として「斎藤クリニック」東京・青山に開設。

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