アイスランド特集 vol.3 火山と氷河、行ってみたから見えたもの

アイスランド特集、最終回です。国土は日本のほぼ四分の一ほど。それでもこの小さな島国に、火山が約130、氷河が約260も存在する。人口は37万人。これは東京・世田谷区の約40%ほどで、どこに行ってもガラガラなので動きやすい。
街やホテル、レストランはおしゃれで可愛く、公共施設までも洗練されていて、とても気持ちのよい街。アイスランドの暮らしは、まさに火山とともにある。数百年前の巨大な溶岩がそのまま残り、黒く固まった大地はあちらこちらで見ることができる。人々はその土地を恐れるのではなく、受け入れ、利用しながら生きている。
地熱発電は国の主要エネルギー源となり、国のほぼすべての電力と暖房を、地熱と水力というグリーンエネルギーで供給する、世界屈指のエコ国家となっている。
2年前、空港近くの観光名所である、Blue Lagoon近辺で大規模な噴火があり、街全体を溶岩が飲み込んだ現場を見てきた。800年前に一度大きな噴火があり、二度目だそうだ。新築の家や学校などはそのまま残っていて、ほとんどの人は街を去った。
また、アイスランド史に残る代表的な噴火は、2010年に起こった「エイヤフィヤトラヨークトル噴火」だ。火山灰がヨーロッパ全域の航空網を止め、世界中がその名を知った。自然のスケールが人間の活動をいとも簡単に止めてしまう。日本でも頻繁に地震が起こっているので、同じ火山の国として決して他人事ではない。山に登り、冷えた火山のクレーターを上から覗くと、大きなお椀のような滑り台が広がっていた。
地球が動いてきた痕跡が、そのまま目の前にある。その直径数百メートルはある、迫力のクレーターの中にいると、「地球は生きている」という事実を感じる。
アイスランドにある火山とは正反対の特徴が氷河だ。氷河は国土の約10%を占めていて、年々減少しているという。100年前は8km先の山の上まで氷河があったんだと、現地のドライバーが教えてくれた。氷河の上に立ち、歩いてみると、下を流れる青い水の音が、何万年という時間を語っているようだった。反対側の山の上から氷河を撮影したとき、どれほど氷が溶けて氷河が後退しているのかが、はっきりと目で理解できた。
20年前と比べても約10%減少していて、近年急速に氷が溶けているという。やはり、温暖化の影響と言わざるを得ない。氷河の減少は、単なる“氷が減る”という話ではない。氷が減ると、太陽の光が反射されずに地面や海に直接吸収されてしまい、気温はさらに上がるという。それは地球の温度を調整してきた機能が、少しずつ失われていくということだ。
氷河は、溶けて水へと形を変え、山の麓に集まり、いくつもの滝を生み出している。落差100メートルを超える滝も多く、轟音とともに霧のような水しぶきが舞う。
この旅で一番強く思ったのは、“知識として知る”ことと“自分の目で見る”ことの差だ。本やデータで知っていることでも、現場に立つとすべてが変わる。ドローンが飛ばないほどの強風は、歩くのも難しいほど強かった。溶岩の匂い、氷河を踏んだ時の音、地熱の温度など、身体で体験することで、数字の向こうにある“リアル”を実感することができる。
アイスランドは、火山と氷河という両極を抱えながら、可愛くておしゃれな街を作っている。噴火の記録を残し、地熱を生活に活かし、非常時の避難ルートを地域ごとに共有している。火山と生きることが、暮らしの一部になっているのだ
日本も同じ火山の国。大切なのは恐れることではなく、知って備えること。自分の住む土地の避難経路を、家族で話しておく。それだけでも、いざという時の強さは変わる。
自然を敵にせず、学び続けること。その姿勢が、この国の静かな強さを作っている。最後に、行くなら今だ。大自然がありながら、オーバーツーリズムでない国は数えるほど。世界中からの観光客で混んでしまう前に、ぜひ!