アイスランド特集 Vol 1 環境問題を物語で
僕のロケは、専門家のインタビューで始まる。
専門家に歴史や地形、自然環境、現在の課題などを聞くことで、いつもとは違った目線で対象物を見ることが出来るから。今回はアンドリ・スナイル・マグナソン氏に会った。
彼は作家であり、思想家であり、映画監督であり、環境活動家でもある。そして彼のキャリアは、一つの分野には収まらない。代表作『On Time and Water』では、気候変動を「時間」と「水」という物語に翻訳。30カ国以上で読まれている。

『Dreamland』ではダム開発とアルミ産業に依存するアイスランドを鋭く批判し、映画としても世界に衝撃を与えた。さらには2016年に大統領選に立候補し、14%の得票を得ている。環境や文化を語る公共的な知識人として、彼はアイスランドを代表する存在だ。実際に会ってみると、その言葉は驚くほどシンプルで、まっすぐだった。

僕は、彼へのインタビューを5つの構成で考えてみた。
・アイスランドの自然の特徴
・環境家の原体験
・アイスランドの自然における課題点
・本や映画で伝える理由
・葛藤と未来
まず、アイスランドの自然の特徴について聞いた。火山と氷河が同居するこの島は、世界でも特異な場所。温泉や地熱エネルギーは生活を支えるが、気候変動によって、近年氷河は急速に失われつつあるという。だから、環境問題を本や映画にして、多くの人に届けているのだ。
「環境問題を、本や映画にして伝える時に、何に気をつけているのですか?」と尋ねると、彼は少し微笑んでこう答えた。「面白くすること」
環境問題は本来、楽しいテーマではない。氷が溶け、海面が上がり、未来が奪われていく話だからだ。昔の物語や映画からヒントを拾い上げ、科学的な数字やデータを、「面白い物語」に変換して届けているという。
それはまさに、恐怖を煽るのではなく、希望や想像力で未来を選べるようにする、彼の姿勢そのものであり、今の日本のSNSで多く見られる、ビューを稼ぐパターンとは真逆であった。彼が繰り返し語ったのは「恐怖ではなく希望を語る」という姿勢だ。
恐怖で人を動かすのは簡単だ。数字では頭には届くが心には響かない、と彼は言う。写真家として僕がやりたいのも、まさにそれだ。崩壊する氷河や燃える森の映像は、一瞬で心を掴むが、何かいつも違和感があった。その違和感の答えに、彼と話していてハッと気付かされた。
そう、頭には残るが心には響かないんだ。ライオンを撮ったとき、僕が思ったのは「この美しさを未来に残したい」という直感だった。多くの子供達に見てもらいたい、と撮りながら思っていた。恐怖ではなく、美しさを通して「残したい未来」を想像してもらう。それが僕の「Lion Night」の根っこにある思想だ。
アンドリの言葉と僕の写真は、方向は違えど同じ地点に向かっている。「未来世代への責任」をどう伝えるか。「まだ選べる未来」をどう提示するか。危機を煽れば、多くの人を一瞬集められるかもしれないが、長続きはしない。
人を動かし続けるのは、恐怖ではなく「共感」と「希望」だ。アンドリが教えてくれた。僕たちが次の世代に残せる最大の資産は、モノでも数字でもなく、「希望を物語に翻訳する力」なのだと。